「患者さんの期待やコストに見合った治療を提供するなら、ここは”夢の国”でなければいけないんです。」麻布十番矯正歯科室:菊池先生

矯正治療は治療期間が長く、保険外の高額な治療費がかかる治療です。また、個人差はありますが、痛みを伴う治療でもあります。そんなデメリットがあるなか患者さんは勇気を出して治療にきてくださっています。

ですので、日本で一番矯正歯科が多い港区という激戦区で、当院を選んでくれるということを当たり前だと思ってはいけません。患者さんの期待やかけた時間と費用に見合った対応を提供しなければならないため、ここは「夢の国」でなければいけないと思っています。

患者さんがイメージする治療後のゴールと私のゴールをすり合わせるために、治したいところはどこなのかを明確にします。

口元が出ているから引っ込めたいと言っても、明確にどこをどう引っ込めるべきかを、専門家目線で今の口元のボリュームはどうした方がいいかをお話をしたのち、最終的な治療計画を患者さんと決めます。

この作業を怠ると、歯並びが整っても口元のバランスやシルエットが悪くなってしまう場合があるんです。たとえば、矯正前に口元が出ていない人の場合、歯がガタガタに重なっているという理由だけで奥歯を4本抜くと、矯正が終了したころには口元が過度に引っ込んでしまうこともあります。

歯は綺麗に並ぶから、矯正の先生としての仕事は果たしてはいますが、患者さんのゴールは美しくなることなので顔のバランスが崩れてしまっては本末転倒だと思うんですね。

カウンセリングの際、最初に横顔のシルエットバランスを見て、その後に歯並びを見ます。当院は、大人の患者さんが多いのですが、大人の方の口元は引っ込みすぎると老けた印象になったり、意地悪な印象になったりします。

口元は、少しの変化でお顔全体の印象に大きな影響が出る部位なので、横顔の写真を撮って患者さんと口元のボリュームについて話し合うことが重要なんです。

さらに現在の口元の状態だけではなく、どういうボリュームにしておいた方が年齢が上がったときに綺麗かということも考えます。具体的には、年齢を重ねて顔がたるんだり、脂肪が落ちてきた時に、どういう口元になるかというポイントですね。

裏側矯正を希望される方は、人に知られないように治療したいという思いが強い方が多いです。なので、抜歯が伴う矯正治療の際には、歯の隙間さえも見えないように治療しています。

患者さんの中には、費用を1番重視されるかたや、快適さを重視されるかた・見た目を重視されるかたなど、いろんな方がいらっしゃいます。

矯正治療は、器具が見えない方が良いだろうと決めつけるのではなく、少し目立つけれどコストを抑えられるものから、費用がかかるけれど全く見えないものまで幅広く用意しています。

具体的には、表側の矯正器具は大きく分けて3種類があり、ワイヤーやブラケット（歯についてる四角い部分）の色や素材が異なります。

表側の矯正でも白いワイヤーと歯になじむブラケットなら、ぱっと見たときに器具が見えにくいものもあります。もちろん、どの器具を選んでも仕上がりも期間も同じにできますよ。

当院の患者さんは裏側矯正のかたが多いですが、費用が少し抑えられるのと、舌触りがよくなるという理由で、上は裏側・下は目立たない表側というハーフリンガルを希望されるかたも多くいらっしゃいます。

また、私から「これがいいですよ」とおすすめすることはありません。患者さんの希望に一番沿えるものを選んでいただくために多くの種類を用意して好きな矯正器具を選んでくださいというスタイルでご提案しています。

基本的に、治療期間は器具の種類ではなくて、患者さんの状態によるので。どの矯正器具でも、数ヶ月から3年半ぐらいの期間がかかりますね。

歯科矯正の方法は大きく分けて、マウスピースとワイヤーの2種類です。この2つは歯の動き方や、動かしていく過程が異なるので、治療期間も違ってくるかと思います。

しかし、ワイヤー矯正でいえば、ワイヤーを通して力をかける仕組みなので、表側でも裏側でもメカニズムは同じなんです。

確かに「裏側矯正は時間がかかる」とよく言われていますが、実はその理由って仕組みが複雑で難易度が高く、先生が1回に進められる治療が少ないからなんです。

裏側矯正専門の先生だと、毎回の治療でベストなパフォーマンスができますが、裏側矯正に慣れていない先生の場合、もしかすると一つひとつの処置に少し時間がかかり、裏側矯正専門の先生よりも治療を進められず矯正の進度に差がついて、治療期間が伸びてしまうのではないかと思います。

みなさん裏側矯正の治療が特別だと思われていますが、実はそうではありません。治療の仕上がりや治療期間は他の器具に劣りませんよ。

また、器具はどれが優れてるっていうこともなくて、あくまで道具に過ぎません。結局は誰がどうやって使うかに尽きると思うんですね。

矯正器具が痛い場合、ワックスという器具の上にクッション材のようなものを乗せ、口の中に当たらなくするものがあります。これは一般に普及していて、ご存知の患者さんも多くいらっしゃいますが、当院では基本的にワックスを渡しません。

ワックスは、 ワイヤーの滑りが悪くなって歯が動きにくくなったり、汚れがつきやすくなって口臭が出やすくなったり、食事の時はワックスを取らないといけなかったりなどデメリットが多いです。なので、ワックスがついていない状態で早く慣れることが患者さんにとって一番快適なことだと思うんですよ。

最初にワックスを付けずに頑張れば、早い段階で体が慣れて平気になります。逆に、最初からワックスに頼りきってしまうと、治療中ワックスなしでは過ごせなくなるかたもいます。

また、ワックスを使わないためにも、当院では舌触りの良いブラケットを使用しています。ブラケットにはいろんな種類がありますが、たとえば術者にとって扱いが難しいものでも、患者さんにとって舌触りが良いものを採用していますよ。

歯並びが悪い時には、バランスよく噛めないので強く当たるところだけ、いびつに削れていきます。なので、せっかく歯並びを整えたのに、削れた部分が目立って真っ直ぐに見えないことがあるんです。

その場合は、患者さんのご希望を伺って歯を少しだけ削って見栄えを良くする歯冠形態修正を行っています。3分程度でできる簡単な処置なので、大体の患者さんがご希望されますよ。

また、削るときはまっ平らに削らず、若干傾斜を残したり自然な形を残したりしています。ビシッと揃い過ぎると入れ歯のような不自然な仕上がりになってしまうので、少しずつ削って患者さんに確認しながら進めていますね。

歯科矯正の技術は日々進歩しているうえ、患者さんもSNSで簡単に情報を得られるので、もう歯を並べるだけという時代ではないと思います。

できるだけ綺麗な並びなったうえで、プラスアルファの細かいところまでやってあげることで、患者さんの気持ちもすごく変わるんじゃないかなと思いますね。

途中まで他の先生が進めた治療を引き継ぐのは難易度が高いので、転院を受け入れていないクリニックが多く、その分困っている患者さんも多いかと思います。

しかし、私自身が矯正をして、矯正治療は人生が変わるほど本当に素晴らしいものだと思っているんです。なので、転院先がないからと治療を諦めず最後まで続けてほしいと思い、転院を積極的に受け入れています。

転院で受け入れた患者さんの場合、基本的には前の先生がやられていた方針でゴールを目指すようにしています。同じゴールでも術者が変わると、別のルートからゴールを目指すので、患者さんからしたら治療期間が長くなってしまう場合があるので、残りの期間や費用をしっかりお話をするよう心掛けていますよ。

転院は患者さんにとって不安が大きいかと思いますが、以前、ある転院患者さんから「物を噛んだ時に綺麗な歯型がつくのが嬉しくて、かまぼことか食パンとかについた歯型を見てニコニコしちゃうんです」と言っていただいたことがあります。

そのときは、本当に一生懸命やってよかったなと思いましたし、矯正について正しい情報を伝えていきたいと思いましたね。

実は、矯正歯科医のなかでフリーランスは珍しいものでは​​ないんです。大学病院の矯正歯科に入っていたときや、裏側矯正の専門クリニックに勤めていたときは、とにかく技術を磨きたいと思って、もうそれしか考えないでやっていましたね。

ある程度経験して自信がついた時に、少し時間に余裕を持ちながら診療したいと思い、日数や時間をコントロールしやすいフリーランスになったんです。しかし、働いている内にだんだんと忙しくなり、最終的には月に28日診療するようになってしまいました……笑。

開業の経緯は、フリーランスとして休みがなくなるほど、必要としてもらえる仕事ができているのであれば、自分でクリニックを持って落ち着いて自分の理想とする治療をしたいと思ったことがきっかけですね。なので、最初は開業するつもりなんて全くなかったんですよ。

港区は、歯科矯正で有名なクリニックや先生が多い激戦区です。

その中で患者さんに選んでもらったり、喜んでもらったりするには、どういうクリニックを作ったらいいかとても考えました。自分の中では、最初にお伝えした通り理想像がはっきりしてたので、それをどのように形にしていくかが大変でしたね。

内観については大先輩や師匠、私が勤めていたクリニックが病院っぽくないスタイルだったので、そこで雰囲気の良さを学びました。

また、私は白衣を着ないことが多く、スタッフもメディカルウェアを一切着ません。患者さんに心地よいと感じてもらうため、テーブルの上には診療機器を置きっぱなしにしませんし、患者さんが1人終わるごとにテーブルを片付けて、診療をするときに必要なものだけを出すなど、気軽に来院してくつろいで診察できる雰囲気には今でもこだわっていますね。

オーストラリアの歯科医では、歯のクリーニングとハイドラフェイシャルをセットでやることは割とスタンダードだそうです。

ハイドラフェイシャルカンパニーが日本の歯科クリニックでも展開を考えた際に、一店舗目としてインスタのDMで突然お声がけ下さったことが導入のきっかけですね。

私がもともとハイドラフェイシャルを気に入って受けていたのもありますが、歯並びの一歩先まで綺麗にしたら患者さんにもっと喜んでいただけるのでは？と思い導入を決めました。

最近では、矯正とは関係なしに、ハイドラフェイシャルとホワイトニングだけを受けに来られるかたもいらっしゃるほど人気メニューとなっていますね。

いつでも相談できる近い距離感は作りたいと思っています。患者さんとの距離感を大事にしていて、先生に質問しにくいとか、いつも忙しそうで話聞いてくれなそうだと思われることがないよう心がけていますね。

また、当院ではLINEで患者さんとやり取りができて、何かあればすぐに質問していただけますよ。

距離の近さというのはクリニック名にも込められていて、小さいクリニックであるという意味を込めて「室」にしました。自分の目が届く小さい範囲で、全部の患者さんを1人で見たいので、代診の先生もいませんし、全部の患者さんを自分で診察し、歯科衛生士と一緒に治療しています。

そのため開院してから10年経って、患者さんの紹介で新しい患者さんが来てくださることも多く、自分が想像していた以上に患者さんとの信頼を築けました。何年経ってもどなたが来ても患者さんとは近い距離感で小さいクリニックで1人1人を大切に、本当にここに来てよかったなと思っていただける治療をし続けたいと思っています。