
「不登校支援の輪を広げ、子どもたちを救いたい」診療科の垣根を超え総合的な心身医療を提供する不登校専門クリニック|不登校/こどもと大人の漢方・心療内科 出雲いいじまクリニック:飯島 慶郎 先生


子どもの不登校の原因を教えてください。

精神疾患や発達障害が根本的な原因となっていることが多い印象です。
不登校の原因として多いのが無気力や不安です。「朝になるとお腹が痛くなる」「学校のことを考えると動けなくなる」などの身体症状をともなう場合もあります。
また、不登校の原因と聞くと、いじめを思い浮かべる方も多いと思います。ただ、これらの無気力や不安と比べると、非常に割合が低いのが現状です。
ほとんどの場合、不登校の背景には精神疾患や発達障害が隠れています。実際、当院で診察した不登校児の98.5%が、うつ病や不安障害などの精神疾患を発症していました。
さらに52%の子どもが、何らかの発達障害を持っていました。発達障害はそれ自体が不登校の原因となるだけでなく、過敏性やストレス耐性の低さからうつ病や不安障害などを発症し、不登校につながるケースもあります。

不登校の診療のポイントを教えてください。

不登校を心理的な問題ではなく精神疾患の症状ととらえることです。
不登校の診察では、子どもが訴える不調を精神疾患の症状ととらえるようにしています。多くの子どもが訴える無気力や不安、抑うつ、体調不良、睡眠障害などは、うつ病や不安障害の典型的な症状です。背景にある精神疾患を正しくとらえることで、適切な治療につなげていけます。
子どもは自身の症状をうまく説明できませんし、症状自体も未分化で疾患を発見しにくいのが特徴です。たとえば「うつ病であっても笑顔を見せることがある」「不安を打ち消すために普段よりも元気に振る舞っている」などということはよくあります。
子どもはもともと笑顔でいることが多いので、「笑っているから大丈夫」と安易に判断してしまうと、状態が深刻化してしまう恐れがあります。そのため「子どもの笑顔が消えたらかなり重症のレベル」というイメージを持っていただければよいと思います。
当院の診療では、子どもの複雑な気持ちを理解できるよう、印象や雰囲気を注意深く観察し、慎重に診断と治療を進めるようにしています。
また不登校の問題は、当人だけでなく家族にも影響を与えます。実際、家族間で互いに不登校の責任を押しつけあってしまい、家庭崩壊につながってしまうこともあります。そのため当院では「これは病気です」と、あえてはっきり伝えるようにしています。原因が明確になることで、家族の分裂を防ぎ、問題の解決につながると考えています。

不登校を理由に医療機関を受診するメリットを教えてください。

適切な検査・診断・支援によって子どもの将来の可能性を広げられる点です。
先述したように、不登校の大半は、精神疾患や発達障害を原因としています。そのため、医師による専門的な検査・診断・支援を受けることが大切です。医師による検査・診断を受けることで、その後の適切な支援へとつなげていけるでしょう。
例えばスクールカウンセラーは、不登校問題の最初の相談先となる場合が多いと思います。ただ、精神疾患の発見や発達障害への支援までは対応しきれないのが現状です。そのため「なにか異変を感じたら、早めに適切な医療機関を受診する」と考えていただければと思います。

不登校の診療を始めた理由を教えてください。

多くの方々が診療を求めているにもかかわらず、対応できるクリニックが圧倒的に少なかったからです。
不登校児童生徒の援助には、医療機関による介入が必要なケースも多くあります。ただ、子どもの精神疾患の診療には、極めて高度な専門性や経験が求められます。そのため通常の小児科、精神科、心療内科クリニックでは、診療自体を断られてしまうケースも珍しくありません。
こうした背景から、現在支援を必要としている子どもの数に対して、医療機関が圧倒的に足りていないのが現状です。実際、私が過去に勤務していた地域医療の現場でも、不登校に関する相談が頻繫に寄せられていました。
また、私自身の娘も不登校を経験し、親子で苦しみを大いに味わう事になりました。そして「不登校専門のクリニックをつくれば、多くの子どもや親御さんたちの助けになれるのではないか」と思うようになり、不登校に特化した診療を始めました。
全国に不登校診療のノウハウを広めていきたいです

先生のご経歴を教えてください。

合計7年間の研修医生活で幅広い分野の診療を学びました。その後、故郷で地域の方々の健康管理に携わり、現在の診療スタイルを確立しました。
大学卒業後、島根大学付属病院の神経・血液・膠原病内科を中心に2年間の研修をしました。その後、三重大学医学部付属病院の総合診療科に移り、5年間研修を受けました。
合計7年間の研修では、小児科、産婦人科、整形外科、皮膚科、救急科、集中治療科、外科、放射線科、耳鼻科、各領域の内科などさまざまな診療を総合的に学びました。
研修修了後は故郷の島根県に戻り、公営診療所で町医者として、地域の方々の健康管理に携わりました。その後、心理療法や漢方薬なども取り入れながら、現在の診療スタイルを確立・開業し、今に至ります。

先生が医師を目指したきっかけを教えてください。

幼いころに通っていた町医者さんにあこがれたことです。
幼少期、私は身体が弱く毎週のように近所の小児科・内科医院に通っていました。担当の先生が、とても頼もしく安心感を与えてくれる方で、次第に「多くの方に頼られる町医者になりたい」と思うようになりました。
また母が薬局を経営しており、日々問診を通して薬を選ぶ姿を見て「自分の知識を使って人の役に立ちたい」という気持ちが芽生えていきました。

現在の診療に影響を与えた過去の経験を教えてください。

総合診療科の研修時に不定愁訴(通常の身体医学では診断・治療が困難な症状)の診療を経験したことです。
総合診療科の研修で相談が多かったのが、心と身体の相互作用から症状が表れる不定愁訴です。心と身体の両方を診療する必要があるため、内科などの細分化された診療では診断がつかないことが多々あります。そのため、不定愁訴を訴える方の多くが、すがるような気持ちで総合診療科に来院されます。
そうした不定愁訴の診療に携わるなかで、「通常の医師では対応できない症状を解決する」ということに使命感を感じるようになりました。この経験が現在の診療スタイルにも大きな影響を与えていると思います。

今後の展望について教えてください。

不登校の診療ができるクリニックを全国に増やしていきたいです。
不登校は、支援を必要としている方が極めて多いにもかかわらず、診療できるクリニックが少ない状況です。こうした状況を変えられるよう、当院のノウハウを精神科や心療内科、小児科の先生方にお伝えし、不登校支援の輪を広げていきたいと考えています。不登校診療ができるクリニックを全国各地につくっていきたいですね。


