
「口腔機能の低下が歯並びに影響することも」小児矯正と口腔リハビリテーションで口内の健康を守る|津田沼前原コウノ歯科・矯正歯科:河野 麻友子 先生
今回取材させていただいた先生
インタビュアー



クリニックにはどのような患者さんがご来院されますか?

多くの方が、むし歯や検診をきっかけに受診されています。再診後、矯正治療や口腔リハビリテーションに進まれる方も多くいらっしゃいます。
当院にご来院される方は、むし歯の治療や詰めものが取れたといった身近なトラブルをきっかけに受診されることが多いと思います。
船橋市の地域柄かもしれませんが、重いむし歯の患者さんもいらっしゃる一方、口腔内の健康に対する意識の高い患者さんも多く、定期検診を受けられる方や予防のために受診される方が増えている印象です。
当院では、詰めものがとれた患者さんに対して単にトラブルを治すだけで終わらせず、その原因をしっかり説明し、必要な治療や予防の提案をおこなっています。たとえば、「なぜその歯だけに負担が集中したのか」「噛み合わせのバランスの崩れが原因ではないか」といった根本原因をわかりやすくご説明します。
噛み合わせの偏りが原因で詰めものが取れたのであれば、そのことを説明し再発しないためにはどのような治療が必要かをご提案して、将来的なトラブルを防ぐことにつなげているのです。
患者さん自身が気づいていない歯並びや歯周病などの問題を発見し、場合によっては、そこから矯正治療や口腔リハビリテーションへと進むケースもあります。現在は、とくに痛みがない方であっても、5~10年先にどのようなことが起こり得るのか、将来のリスクを見据えたアドバイスをおこなうように心がけています。
このように口腔内の専門的な知識をお話しし、ただ問題を修復するだけではなく、将来を見据えた包括的なご提案をおこなっていますので、初診後に次の治療へとステップアップされる患者さんもいらっしゃいますね。

見た目の改善目的ではなく、矯正治療が必要となるのはどのような歯並びの方でしょうか。

特定の歯に過度な負担がかかっている場合や歯磨きがしづらい歯並びの方です。
矯正治療は見た目を整えるためにおこなう治療だと思われがちですが、実は見た目以上に口腔内の健康維持に深く関わっています。噛み合わせの問題が、将来的な歯のトラブルにつながるケースが少なくありません。
たとえば、奥歯は噛み合っているものの、前歯がまったく噛み合っていない噛み合わせである開咬は、見える部分の歯並びは悪くないため、ご自身では不正咬合に気づかないことも多い噛み合わせです。しかし、開咬はそのまま放っておくと奥歯にばかり負担がかかり、将来的に奥歯を失うリスクが高まります。
また、1本だけ変な方向に生えている歯がある場合も、その歯や周囲の骨に大きな負担がかかり、年齢を重ねたときに歯周病が進行しやすくなります。
歯並びが悪く、歯が重なり合っている部分がある方も、歯ブラシが届きにくく、磨き残しからむし歯や歯周病のリスクが高まりますので、矯正治療をご検討いただきたいですね。
矯正治療は、見た目が気になるからではなく、将来の口腔の健康を守るための治療としてご検討いただきたいと思います。

矯正治療が必要な患者さんには、どのようにご提案をするのでしょうか。

長い時間をかけて、患者さん自身がご納得いただけるように説明をしています。
当院にご来院される患者さんで、最初から矯正治療を希望される方は全体の約1〜2割程度です。むし歯や歯周病などの治療や検診を通して、噛み合わせや磨き残しなどの問題が見つかることが多く、そのような患者さんには時間をかけて矯正治療の必要性をご説明します。
大切なのは、無理に治療をすすめるのではなく、患者さん自身が理解し納得したうえで治療を選択することです。
多くの方は、噛み合わせの問題にご自身ではなかなか気付けません。そのため、定期的な通院を通じて少しずつ理解を深めてもらうようにしています。
「なぜこの症状が起きているのか」「今後どのようなリスクがあるのか」といった情報を専門的な立場からご説明します。患者さんがご自身の歯と長く付き合っていくために、最善策をご提案することが大切だと考えています。
もちろん、患者さんがご納得しない限り、無理に治療をすすめたり、抜歯をすすめたりすることはありません。口腔内の状態を定期的にご確認しながら、矯正治療の重要性について繰り返し説明いたします。
長いお付き合いを通して、いつか「先生に言われたとおりだった」とご理解いただけることと思います。そのためにも、痛いときだけ受診するのではなく、定期的に通院していただきたいと考えています。


小児矯正と成人の矯正治療ではどのような違いがありますか?

小児矯正は、永久歯が生え揃うまでは顎の骨の成長を見込んだ矯正治療ができます。これが、成人矯正との大きな違いです。
矯正治療は、大きく小児矯正と成人矯正に分けられます。骨が成長を終えてからおこなう成人矯正に対し、お子さんの場合は顎の骨がまだ発育の途上にあるため、小児矯正では骨格の改善を図る治療ができる点が大きな違いです。
男女差はありますが、永久歯はおおよそ14歳前後で生え揃います。それまでは顎の骨がまだ成長途中です。小児矯正では、成長を利用して歯並びや噛み合わせを整えることが期待できます。
小児矯正は、近年、治療法の選択肢も増えています。当院では、以前から用いられている拡大床やワイヤー矯正のほか、マウスピース矯正にも対応しています。
拡大床とは、主に就寝時に装着するプレート型の装置で、顎の成長を促し、永久歯がきれいに並ぶためのスペースを確保することを目的とする治療法です。
小児用マウスピース矯正は、 成人のマウスピース矯正と同様に透明なマウスピースを使用する治療法です。食事のとき以外は基本的に装着が必要となるため、お子さん自身と保護者の方のご協力が必須ですが、透明で見た目を気にせず治療できるのがメリットです。歯の健康に対して意識の高いお子さんやご家庭では、よい治療経過が見られています。
また、マウスピースを作成する際のシミュレーションは、口腔内スキャナーによるデジタルスキャニングを導入していますので、お子さんでも苦痛を感じることなく型取りが可能です。
スキャニングデータをもとに治療後の歯並びを視覚的にご確認いただけますので、以前に比べて、治療についてより深く理解し、納得いただいたうえで治療に臨んでいただけるようになったと思います。

子どものうちから矯正治療をおこなったほうがよいのでしょうか?

近年は不正咬合のお子さんが増えています。お子さんの状態に合わせ、さまざまな治療の選択肢をご提案しますのでご相談ください。
近年は、幼稚園児から小学校低学年のお子さんの約6割に不正咬合が見られるとのデータも見られます。私は、幼稚園・小学校・中学校の歯科検診に行っていますが、実際に不正咬合のお子さんが増えていると感じます。
不正咬合の主な原因として考えられるのは、顎の成長不足です。近年、口呼吸のお子さんが増え、舌や口元の筋力が低下し、顎の発育不足につながっていると考えられます。
鼻呼吸ができていないと、口元の筋肉が緩んで舌が下がります。舌が正しい位置に収まらないと、上顎の成長が十分に促されません。その結果として、顎がきちんと発達せず、歯がきれいに並ぶためのスペースが不足し、歯並びが悪いお子さんが増えているのではないかと考えられます。
このような状況から、小児矯正の対象となるお子さんが増えています。とはいえ、矯正治療は費用や長い治療期間がかかるため、保護者の方にとっては悩ましい選択かもしれません。
当院では、お子さんの口腔内の状態や成長段階、ご家庭の状況などを総合的に考慮し、最適な治療法やタイミングをご提案できるよう努めています。さまざまな選択肢をご用意いたしますので、まずはご相談いただければ幸いです。

矯正治療が選べない場合、そのほかにどのような選択肢があるのでしょうか?

歯並びの悪さが口呼吸や口元の筋力の低下にあるなら、口腔リハビリテーションも選択肢のひとつだと思います。
矯正すれば歯並びが改善できると考える方は多いと思います。しかし、歯並びが悪くなった根本原因が口呼吸や舌の位置にあった場合、それらの問題が改善されなければ、矯正治療をおこなっても後戻りしてしまう可能性があります。
そのため、当院では親御さんにお子さんの口腔機能の重要性を理解していただき、口腔リハビリテーションもご提案していきたいと考えています。
これは、費用的な面で矯正治療が難しいご家庭にとっても、お子さんの歯並びが悪化するのを防いだり軽度なうちに改善したりする有効な選択肢となり得るのではないでしょうか。鼻呼吸の習慣を身に付け、舌を正しい位置に置くトレーニングは、歯並びだけでなく、お子さんの全身の健康にもよい影響を与えます。
子育て中の親御さんがお子さんと一緒に通いやすいきめ細やかな配慮を


クリニックの診療体制について教えてください。

各分野の専門の歯科医師を定期的に招き、主治医と連携のもと治療をおこなっています。
現代の歯科医療は細分化されています。当院もその専門性を重視し、口腔外科・インプラント・矯正治療・歯周病など各分野に特化した歯科医師を定期的に招いてそれぞれ対応するような体制を整えています。
もちろん主治医は固定いたしますが、親知らずの抜歯やインプラント治療などの専門的な治療が必要となった場合には、主治医の指示のもと専門の歯科医師と連携して治療を進めます。
大学病院での手術が必要と判断されるケースは対応可能な他院へ紹介いたしますが、できるだけ患者さんの手間を省き、通い慣れたクリニックのなかで専門的な治療を受けられるように努めています。
また、当院では、歯科医師だけでなく全スタッフによるチーム医療を基本としています。矯正やインプラントなどの各分野には、それぞれ責任者を置きスケジュール管理を担当することで、専門の歯科医師とのスムーズな連携を図っています。
これにより、歯科医師が治療に集中できるだけでなく、スタッフ自身の責任感が向上し、モチベーションアップにもつながっていると思います。当院では、患者さんにメリットのある診療環境を提供したいとの思いから、このような体制を導入しています。

女性の歯科医師として、心がけていることがあれば教えてください。

お子さんや親御さんに対して、子育て経験を活かした細やかな配慮を心がけています。
女性の手の小ささや指の細さは、奥歯の根管治療など、精密な手技が求められる治療において有利だと感じています。患者さんの口腔内に無理なく手を入れられますので、治療中の不快感の軽減につながっているのではないでしょうか。
診察に入る前には、患者さんの体調を気遣ったり日常の何気ない会話を交わしたりすることで、リラックスして治療を受けていただける雰囲気づくりを心がけているほか、患者さんへの負担を考慮しながら細心の注意を払って治療にあたっています。
また、私自身も子育ての経験があるからこそ、小さなお子さんをもつ親御さんの立場に共感できることが強みだと感じます。たとえば、お子さん連れでの来院は労力を伴うため、1日で2本の歯をまとめて治療したり、兄弟のご予約を同日に取ったりするなど、負担を軽減するため柔軟に対応するように心がけています。
また、歯科医院を怖いと感じるお子さんに対しても、女性の歯科医師ということで安心感を抱いていただけることもあると思います。
女性としての特性も活かしながら、細やかな患者さんへの配慮の意識はスタッフにも指導することで、何でも話しやすく、安心感を持って通っていただけるクリニックとなるように心がけています。

今後、力を入れていきたい治療について教えてください。

お子さんの口腔機能低下症に対する口腔リハビリテーションに引き続き力を入れていきたいと考えています。
近年、口腔機能低下症のお子さんが増加していることで、地域の歯科医師会からも対応を求める声が上がっており、この分野へのニーズの高さを強く感じています。
また、私自身、指しゃぶりや口をぽかんと開ける口腔機能低下症の可能性がある子どもを育てていることからも、口腔リハビリテーションの必要性を痛感しています。
口腔機能低下症に対する口腔リハビリテーションは、まだ多くの歯科医院でおこなわれているわけではありませんが、近年、保険適応となった項目もある分野です。この分野に力を入れることで、費用的な面で小児矯正治療を始めることが難しいご家庭の力にもなりたいと考えています。

最後に、受診を検討している方に向けたメッセージをお願いします。

今だけでなく、10年後の口腔内の健康を見据えた治療をご提案します。まずはお気軽にご来院ください。
患者さんお一人おひとりの状態やライフスタイルに合わせ、さまざまな治療の選択肢をご提案することで、あらゆる世代の方々がご自身の歯と長く付き合っていけるようサポートいたします。どのような些細なお悩みでもかまいません。どうぞお気軽にご相談ください。



