根本原因にアプローチする咬み合わせ治療。栄養療法を取り入れた予防医療で目指す健康で豊かな生活|足立優歯科:足立 優 先生
今回取材させていただいた先生
インタビュアー
足立優歯科の治療方針について教えてください。
生涯にわたってご自身の歯を使うことを目指し、健康で豊かな生活を支援することです。
当院では、患者さんが生涯にわたりご自身の歯を使えるよう、予防型総合歯科医療を実践して、健康で豊かな生活を送るためのサポートをいたします。これを、私たちは“豊か生活支援業”と呼んでいます。
日本人の平均寿命は年々延びていますが、ただ長生きすれば良いわけではありません。人の手を借りず、自分の力でやりたいことができる健康寿命の期間を少しでも長くすることが大切です。
口は、消化・吸収・排泄をおこなう消化器官の中で、食べ物を摂取する入り口として重要な機能を担っています。
当院では、口全体を包括的かつ根本的に治療し、口を体の中にあるひとつの臓器と捉えて体全体の問題の解決を目指すことにより、自分らしい人生を送っていただくための支援をしています。
また、ご自身の歯を長く維持するためには、なぜ歯に穴が開くのか、なぜ歯ぎしりをするのかという原因にアプローチし、根本からの治療が重要です。歯科では対症療法をおこなうのが一般的ですが、当院では予防と原因へのアプローチを大切にしています。
歯を長持ちさせるために大切にしていることは何でしょうか?
むし歯・歯周病・医原性疾患・咬み合わせの問題を取り除くことです。
歯が使えなくなる原因となる病気は、むし歯、歯周病、医原性疾患(副作用や医療過誤など医療行為によって起こる病気)、咬み合わせ(不正咬合)の4つです。つまり、この4つの問題を口の中から取り除けば、歯は悪くなりません。
そのために大事なのは、口の機能を整えることです。定期的なクリーニングで、むし歯菌や歯周病菌を取り除けば、むし歯と歯周病の予防につながります。
医原性疾患は、歯科医師としてやるべきことを手抜きせずにきちんとおこなえば、防げると考えます。
咬み合わせを整えるとは、上下の歯の接触や擦り合わせの仕方を整えることです。誤解されることも多いのですが、咬合治療は歯並びを整える矯正治療とはまた別の治療です。
咬み合わせを整えないと、どのような症状が起こりますか?
歯ぎしりや食いしばりの症状がずっと続き、顎関節症を引き起こす可能性があります。
咬み合わせとは、上下の歯の当たり方と擦り方で、顎を動かす筋肉の力を制御する仕組みです。この仕組みが整っていないと歯に無理な力がかかります。たとえば、自らの力でそのずれを整えようとして、歯ぎしりや食いしばりが起こります。
出っ歯(上顎前突)や受け口(下顎前突・反対咬合)など、ずれが大きいとなかなか咬み合わせを整えられず、長期にわたり歯ぎしりや食いしばりの症状が現れます。さらに、その状態が長く続くと顎関節や筋肉にもトラブルが生じ、顎関節症の原因ともなります。
歯ぎしりや食いしばりは、ボトックス注射で改善を目指すこともできますが、これは症状に対して治療をおこなう対症療法です。それに対して当院が力を入れているのは、原因である咬み合わせを整え、症状の改善を目指す根本治療です。
咬み合わせの治療は、口の中の機能をきちんと整えるということです。当院では、経験や感覚に頼った治療ではなく、ドーソン咬合理論※という科学的根拠に基づいた咬合治療をおこなっています。
診断結果により治療法は異なりますが、具体的には、引っかかりのあるところを整え、顎の正しい場所で均一に接触できるように治療する咬み合わせの調整や、エナメル質の形を整えて正しい咬み合わせに導く被せ物の修復、上下の歯の位置のずれを改善する歯列矯正といった方法を用います。
※咬合学のパイオニアである、ピーター・E・ドーソンが提唱。
歯列矯正も機能を整えるためにおこなうのでしょうか?
はい。機能を整えることを目指すと、結果的に見た目も美しく整います。
歯並びが悪いと、歯が重なったところに細菌がたまり、むし歯や歯周病を引き起こしやすくなります。歯並びを整えることは、見た目を美しくするだけではなく、口の中をクリーニングしやすい状態にして、むし歯や歯周病から歯を守ることにつながります。
また、上下の歯の位置のずれが大きい場合にも、正しい咬み合わせを確保するために歯列矯正をおこなうことがあります。歯の高さや位置を調整し、垂直方向に加わる力や横揺れの力を排除することで咬合治療が成功しやすくなると考えられているためです。
さらに、咬み合わせの仕組みが適切に機能するように口元を整えると、その結果、スマイルラインやEラインも美しく整います。スマイルラインとは、上の前歯の先端を結んだラインのことで、このラインが下唇のカーブと一致していると美しく見えます。
出っ歯や受け口の方は、矯正治療と咬合治療によって機能を整えることで、美しいEラインが期待できます。
口腔環境を整えることが病気の予防や全身の健康につながる
予防医療はどのようにアプローチするのでしょうか?
生涯にわたって歯を使えるお手伝いをするため、患者さんが胎児の段階から予防医療を提案します。
病院は、不調が現れてから受診するところだと認識している方が多いかもれません。しかし、当院では胎児の段階から人生の最期まで、ライフステージに合わせてずっと寄り添って管理することで、口の中の健康を維持できるものと考えています。
一生寄り添うためには、患者さんがお腹にいる頃からアプローチする必要があります。歯は胎児の口の中で作られ始めますし、そこにはお母さんの栄養状態も影響します。
当院に通っている方で、妊娠を希望される方や妊婦さんには、栄養療法による予防医療を提案します。
また、乳児期の段階から口腔環境を整えるためには、お母さんの口の中を清潔にし、細菌が赤ちゃんに感染しないように予防することが大切です。
栄養療法は具体的にどのようなことをおこなっているのかを教えてください。
血液検査で足りない栄養素を確認し、食事指導をおこなうことで全身の健康を目指します。
まず血液検査をおこない、タンパク質・鉄・ビタミンB群・亜鉛・カルシウム・マグネシウムなど、体に必要な栄養素が足りているかどうかを確認します。
不足している栄養素があれば、食事指導をおこなうほか、必要に応じてサプリメントや点滴療法も用いながら補います。歯科として、消化器である口の機能の改善を目指すのは当然ですが、不足している栄養素を補うことも重要です。
歯周炎を起こした歯茎が改善するためには、歯科治療のほかにタンパク質・ビタミン・ミネラルなどの栄養素を必要としますので、もし不足していれば補うことが大切です。
予防医療で防げるのは歯の病気だけですか?
口の健康を保つことは全身の健康の維持につながります。
体に病気が発生するプロセスには“感染”と“栄養失調”が関係し、口はこの2つに関連する臓器です。
病気にならないためには、感染を防ぎ体内に炎症が起こらないようにすることが重要です。口はさまざまな病気の感染源となるため、口の中を健康に保つことは予防の基本です。
むし歯や歯周病を治療せずに放置していると、口の中のトラブルだけではなく全身のさまざまな病気の原因になる可能性があります。
歯周病と糖尿病は相互に影響があると指摘されていますし、歯周病菌が血管に侵入すると動脈硬化を悪化させる原因になると言われています。
このように、歯の健康を守ることは全身の健康維持につながると考え、当院では予防医療をおこなっているのです。歯科医療が予防医療の担い手として活躍する時代が来ると考えています。
口内の健康と栄養失調はどのように関連しているのでしょうか?
歯が悪くなると摂取できる栄養素が限られ、栄養が不足し、健康に影響をきたす可能性があります。
口は、体中の細胞が適切にはたらくために、必要なエネルギーや体づくりの材料を供給する消化器官としての役割を担っています。
歯が悪くなったり、歯の本数が減ったりすると、食材の摂取に偏りが出て、必要な栄養が摂取できなくなるというデータもあります。
どのような食材でも咀嚼できる口腔環境を保つことは、栄養素をきちんと確保するためには必要です。歯が悪くなると硬い食べ物を咀嚼できなくなるため、柔らかい食べ物や甘い物を摂取することでカロリーを補い、手軽に満足感を得ようとする傾向が現れます。
すると、炭水化物や糖質の摂取量が増え、5大栄養素のうちビタミンやミネラルが十分に摂取できなくなります。そして、この状態が5~10年と長く続くと、徐々に体の中にひずみが生じていき、病気を発症しやすくなるのです。
このような状態を予防するために、歯の健康を保つ必要があると考えています。そして、口の健康から、全身の健康づくりを目指していくのが当院の特徴です。
歯科医師は歯を治療するだけではなく、病気にならないための伴走者
歯科医師になるにあたって影響を受けた出来事があれば教えてください。
父をはじめ、3人の歯科医師からかけてもらった言葉が今の診療スタイルにつながっています。
私の父も歯科医師でした。幼い頃、歯科医師だった父から「歯科医師というのは、患者さんから感謝の気持ちと共にお金をいただける、とても良い仕事だ」と言われたのが、歯科医師を目指すことになったきっかけです。
その後、学生時代に所属していた部活の先輩から、「歯科医師を目指すなら、日本一を目指すべきではないか。きちんとした治療を提供することで評価を受けている歯科医師もいる」とアドバイスを受けたのです。
先輩の言葉を聞いて、歯科医師としてやるべきことをきちんと極めていくことが大事だと思いました。
また、歯科医師の勉強会で、師匠からも「常にベストを尽くし、最善以下のことはしないこと。職業人としてやるべきことをやる。このことを守れば成功につながる」というゴールデンルールについて教えられました。
これら教えは、今の診療スタイルにつながっていると思います。
患者さんとのエピソードで印象に残っていることはありますか?
患者さんに喜んでいただいた数々の経験は私の支えになっています。
師匠からの言葉に従い真摯に診療を続けてきた結果、患者さんとの忘れられない思い出の数々が生まれました。それらの経験は、私を突き動かす原動力となっています。
歯科医師となって間もなくの頃のことです。治療を終えた患者さんが、久しぶりにキュウリを食べることができ「パリッという音を聞いたとき感動して涙が出ました」と話してくださいました。食べることは、患者さんにとってそれほど大事なことなのだと再認識した経験です。
また、阪神淡路大震災によって自宅が倒壊し、新たなマンションを購入してダブルローンとなった患者さんも印象に残っています。ご家族から「学費はなんとかするからお父さんに病気を治してほしい」と言われ、2人のお子さんの学資ローンを使って治療されました。20年以上経った今も通い続けてくださっています。
メンテナンスに通われる患者さんからは、「ずっと先生に診てもらいたいから長生きしてね」とお声をかけていただけることも多く、歯科医師としてのやりがいを感じています。
カウンセリングで大切にしていることを教えてください。
患者さんの話をよく聴き、患者さん中心の医療を提供することです。
私のカウンセリングは、3人の先輩の言葉がベースになっています。まずは、米国テキサス州ダラスの歯科医師、ヒルドブランド先生の言葉です。成功のカギは「Not educete only listen」。これは、ただ話を聴くだけで患者さんを教育するなという意味です。
この言葉は、私がカウンセリングを勉強したときに、筑波大学名誉教授で行動科学を専門とする宗像 恒次 先生から教わった「患者さんの話を聴きなさい、そうすれば患者さんはほかには行けなくなります」という言葉とも通じるものがあります。
これらの根底にあるのは、大阪大学医学部名誉教授の故・中川 米蔵 先生が導き出した、「患者さんは自分のことを聴いてほしい」けれど「医師はよく説明をする」ということです。
カウンセリングでは、患者さんの気持ちを「聴くこと」が1番大切です。そして、その次に大事なのは、検査結果や治療の選択肢など客観的な医療データは伝えても、特定の治療への誘導はしないことです。患者さん中心の医療の実践を心がけています。
最後に、受診を検討されている方へメッセージをお願いします。
健康で豊かな生活を送るためのパートナーとして選んでいただきたいと思います。
口の健康を維持することが病気の予防につながり、健康寿命を延ばし、ピンピンコロリの人生の実現を目指すための基本だと考えています。今後も、歯科医療が予防医療の担い手となるような活動に力を入れていきたいと思います。
そして、患者さんには歯科医師を単なる歯の修理屋と思わずに、病気にならない人生を支援するための伴走者として選んでいただきたいと願っています。パートナーとしてお話を伺い、人生に寄り添ってまいりますので、まずはご相談にいらしてください。